
はじめに
Facebookで肢体不自由のある子どもの保護者から、繰り上がりのある足し算などに実物を操作しながらの学習が困難があるけどどうしたらいいだろうか、というご相談がありました。
学習指導要領や研究などから
学習指導要領にも肢体不自由のある子どもの学習面の困難さとしてこのような事が書かれています。
特別支援学校学習指導要領等(平成29年4月公示・平成31年2月公示)

3 肢体不自由者である児童に対する教育を行う特別支援学校
⑴ 体験的な活動を通して言語概念等の形成を的確に図り,児童の障害の状態や発達の段階に応じた思考力,判断力,表現力等の育成に努めること。
⑵ 児童の身体の動きの状態や認知の特性,各教科の内容の習得状況等を考慮して,指導内容を適切に設定し,重点を置く事項に時間を多く配当するなど計画的に指導すること。
⑶ 児童の学習時の姿勢や認知の特性等に応じて,指導方法を工夫すること。
⑷ 児童の身体の動きや意思の表出の状態等に応じて,適切な補助具や補助的手段を工夫するとともに,コンピュータ等の情報機器などを有効に活用し,指導の効果を高めるようにすること。
⑸ 各教科の指導に当たっては,特に自立活動の時間における指導との密接な関連を保ち,学習効果を一層高めるようにすること。
この4番目にあるようにコンピュータなどは必要な方法でしょう。より具体的にはどんな課題があるでしょうか。
2010年〜2011年にかけて国立特別支援教育総合研究所で行った
「肢体不自由のある児童生徒に対する言語活動を中心とした表現する力を育む指導に関する研究-教科学習の充実をめざして- 」
という研究では
以下のような記述があります。
(5)主に補助用具や補助的手段、コンピュータ等の活用に関すること
解説書において、本項では、児童生徒の身体の動きや意思の表出の状態等に応じて、適切な補助用具や補助的手段を工夫すると共に、コンピュータ等の情報機器などを有効に活用し、指導の効果を高める必要性について指摘している。
一木(2009a)は、障害特性が教科指導に及ぼす影響として、上肢に障害がある子どもは書字や作業に時間がかかる又は困難があることに触れ、指導目標の重点化を図った上で、代替機器の活用や代筆等の選択があり得ることを述べている。安藤(2009)は、前述のシンポジウム「肢体不自由教育が培ってきた専門性に基づく個に応じた指導―『見えにくさ・とらえにくさ』をふまえた教科指導の実践」での話題提供の概要として拡大教科書や学習しやすい補助用具の活用例について紹介している。
実際の指導事例として、江田(2002)は、筋ジストロフィーのある生徒がインターネットを介して通常の学級と授業交流を図る例を紹介している。同じく江田(2005)は、国語や算数、図工においてコンピュータを有効活用した事例の中で、利用目的を具体化し、教材の工夫によって 対象児の機能的な学習の限界を乗り越えることができた実践を紹介している。併せて算数におけるシンプルな教材・教具の工夫例についても紹介した上で、豊かな経験を積むためにも、適切な表現手段が必要だと指摘している。
また、松浦他(2009)は、特別支援学校によるセンター的機能の一環として、高校に在籍する肢体不自由のある生徒の支援をする中で、高校での教科学習においても、コンピュータへの入力への手だてが有効だったケースについて報告している。
一方、現行学習指導要領解説にも同様のことが述べられているが、西川(1991)は、補助用具、補助的手段の活用の適否は、児童生徒の運動・動作や意思の伝達等の状態や改善の見通しに基づいて慎重に判断する必要性について述べている。https://www.nise.go.jp/cms/resources/content/7054/seika11_3.pdf
また、別の章では以下のように書かれています。
② 「書くこと」について
上肢の障害がある場合には、書字や作業が困難となったり、多くの時間がかかってしまったりする。さらに、江田(2005)は「筆記の困難が自分自身へのフィードバックを妨げ、 作業を適切に調節することができない」という視点を挙げ、メモを取ったり計算をしたりという作業が手軽に行えないことによる二次的な学習上の不利益を指摘している。
姿勢や動作の不自由による書くことの困難さについては、まず、机や作業台、教材の位置などに配慮する、鉛筆にクリップをつけて握りやすくする、ノートの下に滑り止めマットを敷く、ワークシートにマス目や枠を用意して書きやすい工夫をする、など、児童生徒のニーズに応じた物理的な環境整備が不可欠である。また、個々に応じて、パソコンやトーキングエイドなどの代替機器を利用することが検討される。江田(2005)は、トーキングエイドをコンピューターの入力装置に応用し、原稿用紙の升目に一文字ずつ書き込める教材ソフトウェアで作文指導を行った事例を紹介している。
授業計画を立てる際は、姿勢・動作の不自由さや、感覚・認知の特性から来る困難さが加 わることによって、書く作業に時間がかかるということを、あらかじめ計画に入れる必要が ある。また、学習の目標を精査し、例えば「思考を必要とする学習課題において、書くこと に集中して時間をかけたために、本来の学習目標が達成できなかった」ということにならな いような手だてが必要である。重点的な課題に十分取り組めるよう、前段階の作業について 準備しておいたり、直接書くことが重要でない活動では教員が代筆したり、あらかじめ記入 済みプリントを作っておいたりする、などの工夫が考えられる。
視知覚・視覚認知面に困難がある場合、位置や形を捉えづらく文字を書きにくい。文字の形を整えることが苦手で、似た文字と取り違える、等の課題が多く見られる。このような課題に対して、森岡(2002)は、読み書きの土台となる聴覚記銘力や図形の弁別能力、空間の位置関係を把握する力などを意識した指導事例を紹介している。また、筑波大学附属桐が丘特別支援学校(2008b,2011)は、「見えにくさ・とらえにくさ」のある一人一人の子ど もの認知特性に合わせて、文字の構成をへんやつくりなど部分やまとまりに分けて学習する、 筆順に沿って運動の方向を言語化し視覚情報を聴覚情報に置き換える、漢字の成り立ちなど 有意味化することで長期記憶しやすくする、形や全体像を指でなぞって触覚を活用する等、 の手だてを紹介している。
また、物事を統合する力や部分と部分の関係をつかむ力が弱い場合には、作文などで、書きたいことはあっても内容の順序等を頭の中で整理することが難しかったり、伝えたい情報の取捨選択が難しかったりする。さらに、書いているうちに伝えたいことを忘れてしまう、等の困難さが見られる。このように、文を組み立てることに難しさのある児童について、具体的な操作を行いながら思考をつなぎ、継時的に文章全体が確認できる手立て(伝えたいことをメモにして整理し、メモを並び替えて、相手に自分の気持ちが伝わるような文章を組み立てる等)を用いた事例が報告されている(筑波大学附属桐が丘特別支援学校、2009)。
http://www.nise.go.jp/cms/resources/content/7054/seika11_4.pdf
これらに出てくる江田さんの論文はこちらです。
江田裕介(2005).教科における支援の専門性.肢体不自由教育,172,24-29.
いまちょっと手元に無いので、後日、探して紹介しますね。
コンピュータの補助的利用とパソコン教材
さて、算数数学を学習する場合に、筆算や作図などを補助するための利用方法と、具体的に教材として利用する場合の2つの方法が考えられます。
前者の
補助的利用
としては、こんな事が考えられます。
肢体不自由のある子どもが数式を入力するには

数式入力の出来るアプリを探して,分数が簡単に入力したいが・・・

2015年に整理した情報なので、リンク先がだいぶ切れてますね。再整理します。
この他にこのアプリなんかも有用です。
Geometry Pad

次に
算数学習で使えるアプリ
となります。
これについては、問題となるのが「直接キーボードを入力しなくてもいい」というもの。
どうしてかというと、マウス(視線マウスも)などの代替装置を使っているケースがあるため、キーボードを使うとなると、必然的にキーパッドを画面に出さなくてはなりません。
その手間を考えると、画面上での課題をクリックまたは、すでに数字が出ていてそれを選べばいいので、入力の負担が軽減されます。
また、そういった回答の候補を選ぶ際に、「キーボードアクセス」が可能になっている事も大切です。
これは、代替装置として「Tabキー」と「Enterキー」で操作する方法です。マウスで使えればいいといったのに、キーボード?と思われるかもしれませんが、例えばこのサイトをパソコンで見ているのならぜひ上記の2つのキーを押してみてください。
「Tabキー」を押すとブラウザ上のクリックすべきポイントがハイライトされて選択してる事が分かると思います。その上で「Enterキー」を押すとその候補が選ばれます。
こういった機能はブラウザでは標準的にできるようになっていて、肢体不自由や視覚障害のある人にはアクセスしやすくなってるのです。
ですが、ソフトによってはこの機能に対応していないものがいくつかあります。
なので、この2つについて考えていけるといいです。
さて、古くから知られているソフトの「ランドセル」シリーズはこれを意識して作られていました。
ランドセルシリーズ
いまもそうなっているのか、調べられていないので微妙なんですが上記の視点でアプリを探すといいと思います。
また、以前にも紹介したこのアプリはAndroidをエミュレーターでWindowsで操作できますので、いいでしょうね。
特別支援教育に役立つゲーミフィケーションアプリ「ファンタムスティック」

ところで、特別支援教育での算数の学習といえば、遠山啓の「水道方式」が有名です。
東京都立八王子養護学校での実践は私が教員になる前からのもの。
さて、そんな事でネットで探していたらいつもお世話になっている仙台高専の竹島研究室がWeb教材を公開していました。
仙台高等専門学校 竹島研究室
算数学習支援Webアプリ(ALIS)
まだ、教材は構築中のようですが竹島研究室とはアクセシビリティのある教材の開発で一緒に研究をした事もありますので、上記のニーズは当然考慮されているはずです。
なので、これがいまイチオシかもしれません。
という事で、本日はここまで。


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